anezakimanのアブダビ日記

アラブ首長国連邦アブダビ首長国に駐在になりました。そこで出会ったことを綴ります。

イラン・イスラーム共和国旅行記

2度目の海外(UAE国外)旅行で、イランの首都テヘランに行ってきた。イランは生まれて初めて行く国だ。それもあって(前回のアルメニアと違って)今回はテヘラン駐在中の商社マンに全面的に頼ることになった。2泊3日の行程、宿泊先など、すべてこの親交10数年になる同世代の友人にお願いした。イランでは確かにひとり旅は難しく、その商社さんの現地スタッフ含む皆さんに大変お世話になった。そのおかげで現地駐在の日本人の声、テヘランっ子の目線、そしてツーリスティックなテヘランとディープなテヘランの両方を体感できた、大変有意義な旅行となった。

そもそも行く前のイランの印象は以下であった。

  1. 人口8千万人の中東随一の大国。紀元前後のアケメネス朝、ササン朝などの大版図を持ったペルシャ帝国の歴史が脈々と続いており、国民もペルシャ民族であることに誇りを持っていてプライドが高い。
  2. 世界で唯一のイスラームに基づく宗教国家であり、イスラーム全世界ではマイナー(約1割)なシーア派の一大拠点。人々のイスラーム意識は高い。
  3. イスラーム革命(1979年)以降は、イラクとの戦争(1980-1988年)、米国主導の西側からの経済制裁、サウジやイスラエルとの冷戦、IS台頭、シリア内戦への支援参画、経済制裁解除と思いきやトランプ政権による制裁再開強化など、苦難続きである。それでもこの中東大国は、ある種の独裁制の下、頑強に抵抗して頑張っていくのだろう。
  4. 日本との近年の良好な関係の嚆矢は、出光石油の日章丸事件。俺も「海賊とよばれた男」を読んで感動したクチで、日本人に対するリスペクトあり。

上記はややステレオタイプであるが概ね一般的な日本人が持つ印象であろう。まずは行ってみて驚いたこと。

  • 携帯電話が通話もメールもネットも外に出るとまったく繋がらない。ホテルにはWiFiあるが弱くてすぐに切れる。
  • クレジットカードがまったく使えない。現地ではドルキャッシュ、またはそれを現地通貨(リアル)に替えないと何も出来ない。通貨といえば、リアルの他にトマーンという通貨でないのに皆それをベースに請求したり支払ったりする単位があり、ややこしい。
  • やはり厳格なイスラームの規律はあって、酒まったくダメ(もちろん蛇の道はあるんでしょうが)、男は半ズボンダメ、女性は必ずアバヤ(髪を隠すスカーフ)必着。
  • トイレがすべて和風のいわゆるキンカクシ無し(空港や一部高級ホテル除いて)。男女とも同じらしく、男の子はオシッコもそこで座ってやるように教わるのだと。だからレスリングと重量挙げが強いのか。
  • トイレットペーパーをトイレに流せない。紙だと詰まる配管構造であるという。したがって使った紙は流さずに備え付けのゴミ箱に入れる必要あり。

やはりちょっと不便で異質で不思議な国ではある。しかし後述するように、人々は人懐こくて親切、自然豊か、食事は美味しく、通信や支払いの不便さも別の空間に舞い込んできたと思うと興味深い(もちろん駐在の方は大変だと思う)。

そして上述の4つの仮説はかなり裏切られた。

  1. 国家はイスラーム革命以前の歴史に否定的で学校でもちゃんと教えないという。したがって大ペルシャ帝国の末裔という意識はそれほど強くは感じられず、一方でそうした政府の対応に嫌悪感を持つ人も多い(例えばイスラーム革命以前の歴史的なものに対する保存意識の少なさに対する怒り)。
  2. ある種の感覚的なコンセンサスによると、敬けんなイスラーム教徒は国民の2割、仕方ないとしぶしぶ従っている風見鶏層が3割、残り5割は神は信じてもイスラーム政権は信用置けないと。それもこれもイスラーム革命以後の政府のいい加減な対応に辟易しているからと。
  3. 今後の経済財政運営の見通しはかなり厳しい。それほどトランプの経済制裁の影響は大きく、日本人駐在員もテヘランっ子も相当な危機感を抱いている。国民の不満は高まっていて、俺が絨毯を買ったグランドバザールでは翌日に大規模なストライキが発生、絨毯屋は皆休業で集会を開いていたとのこと。イラン人の政府への不満爆発が先か、トランプの退陣が先か、かなり危ない橋ではないかとの見解も。
  4. 日本人に対するリスペクト、親しみ感はすごい。道行く人と目があって日本人というと、皆さん顔を崩して Welcome、よく来たという感じ。一般的にイラン人はお節介なくらい親切で優しい。

わずか3日ほどでの交流に基づく観察、考察なので、本当かどうかわかりませんが。以下、周った場所中心に写真編。

ミラドタワーと呼ばれる電波塔から。山の麓の巨大都市だね。

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 青色基調のシーア派のモスク。

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シーア派のモスクはお祈り最中でも一般人も入れる。中で写真を少し撮らせていただきました。 

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 パウラヴィー朝(1925年からイスラーム革命前の1979年まで約55年続いたペルシャ民族王朝)の宮殿跡に広がる公園。午前中は20℃台後半の天気で、とても気持ちが良く、この中を2時間半ほど歩いた。

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 その公園内にある皇帝の夏の避暑宮殿。

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 テヘランに唯一ある世界遺産のゴレスターン宮殿。こちらはカージャール朝(1796-1925年まで約130年続いた)の宮殿跡。他にも様々な博物館が広がっている。

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 グランドバザール近くの昔ながらの素朴な商店兼住宅街。狭い路地に車やらバイクやらがひっきりなし。

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人懐こくいつまでも話し続ける日本大好きおじさん。 

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 住宅街にあった浴場博物館的施設。18世紀からの社交場であったという。

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グランドバザール。いつもより観光客も地元民も少なく、経済環境の厳しさが伺える。

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ここからは料理編。とにかく羊肉が美味しい。

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初日の晩餐はイラン特有の素敵な野外個室レストランで。

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 そこで食べたディナー。羊のケバブにお醤油をかけていただくと絶品。

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 これも羊肉をベースにした煮込み料理。優しくで深みのある味。

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 最後に、この国の国力を結果的に落としたのがイスラーム革命との話はあちこちで伺った。イスラームを前面に押し出したのは、パフラヴィー朝打倒のため国民勢力を一致団結させるための戦術であり、ホメイニ師もイスラーム国家の永続までは考えていなかったとの説あり。

しかしながらその後のイラクとの戦争で政争どころではなくなり、今の体制、イデオロギーが堅持され、既得権益者が強固になっていった構造が今のイランだという。それに不満を持つイラン人(特に若者)が増えているらしい。

そう考えるとイランの今後は目が離せない。現実的に足元でリアル通貨が急落している。俺のホテル代は、予約してもらった2週間ほど前には1泊150ドルと言われたが、清算時には2泊で155ドルと半減した。

いろいろなことを考えつつ、友人と親交を温め、現場で暮らす日本人、テヘランっ子との交流に大いに刺激を受け、啓発された日々であった。