anezakimanのアブダビ日記

アラブ首長国連邦アブダビ首長国に駐在になりました。そこで出会ったことを綴ります。

アブダビ石油という名のニッポン会社物語

アブダビ首長国の沖合で石油の開発、生産を行なっているアブダビ石油株式会社が、昨年創業から50周年を迎えた。これを記念して本を発行された。この度、親しくさせていただいている同社幹部殿から、その書籍『挑戦を続けた半世紀』を寄贈いただき読了した。非売品でありアマゾンその他でも手に入らない。

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この国の建国4年前の1967年に、海上油田鉱区の権益を獲得し、翌年に会社設立、以来半世紀に渡ってアブダビで油田の開発、原油生産事業を継続されてきた。この間の同社関係者の方々の並々ならぬご苦労、努力、奮闘ぶりに大いに感銘を受けた。

正直、日本にいる時はアブダビ石油と言ってもピンとこなかった(当時俺が在籍していた会社にはあまり注文頂けなかったこともあり・苦笑)。アブダビ民族系の石油会社とも思っていた。実際は日本のコスモ石油とJXエネルギーが中心となった100%日本の会社である。その国自体の名前を冠する完全海外企業の例はあまり聞いたことがない。いかにその国に腰を据えて密着して事業を行い、その国の経済や社会に貢献してきたかということだろう。

俺も石油ガス開発生産関連の資機材供給をビジネスにしているので、同社の一貫した事業プロセス、すなわち資源保有国家からの石油開発権益の交渉・獲得、千三つともいわれるリスクの高い商業生産可能な油井の探査・発見、生産設備の建設・運営、生産された原油の出荷、さらにいろいろな段階での様々な事故やトラブルまで、臨場感に満ちた記述は大いに参考になった。

さらには新たな技術革新に挑みながら、変動の激しい原油価格に事業環境が大きく左右される経営の難しさを乗り越え、世界中の幾多の石油会社が消えていくなかで、半世紀も中東の地で事業を継続されてきた叡智と情熱と執念に、尊敬の念を覚えた。

以下、印象に残った内容を抜粋させていただく。

  • アブダビ石油は創立以来、純然たるオペレーターとしての立場を貫く。つまり自社社員が現場に出向いて現地採用社員とともにプロジェクトを推進し、調査から生産、出荷までの一連の活動に携わっている。自社ですべてのリスクを抱える大変さはあるが、自ら最前線に立つからこそ現場を尊重し、石油開発の神髄を知ることができる。だからこそ、同社は創業以来、オペレーター一筋であることに誇りを抱いている。
  • アブダビ石油の創立はUAE建国よりも3年早い。外務省の外交青書に「アブダビ」の名前が出てくるのはアブダビ石油が石油開発権益を獲得した後である。
  • あの当時地図ではトルーシャル・ステーツ(休戦海岸)という表現でアブダビとは書いてなかった。アブダビ赴任を命じられた初期メンバーは家族から「あなたは地図にも載っていない訳の分からないところに、私と幼い子供2人置いてひとりで行く気ですか!」と泣きつかれたという。
  • オイルショック時、OAPECは石油配分の基準として、世界の国々を「友好国」「準友好国」「中立国」「非友好国」の4つのカテゴリーに分け、日本を中立国に分類した。当時のオタイバUAE石油大臣がOAPECの会議で「日本を友好国扱いすべき」と提案したところ、クウェートの代表が反対し、両者の間ではかなり激しいやり取りがあったようだ。その際に大臣は「アブダビでは日本の石油会社が、メジャーが見向きもしない中小油田の開発を手掛けて我が国のために貢献している」と主張したという。この会議の後、日本は友好国に格上げされた。
  • アラブで仕事をするにはまず顔を覚えてもらうことが大切。そして次の5つの「あ」が必要。慌てず、焦らず、あくせくせず、当てにしないで、諦めない。特に最後の諦めないが大切。
  • 現場のきれいさこそがすべての基本。
  • 欧米の開発会社は狩猟型で、石油が出なくなれば次の油田に行く。それに対して、アブダビ石油の仕事ぶりは丁寧で、自然減退する油井に対して、手を変え品を変えアプローチを重ねる。その姿勢はアブダビ国営石油会社から高く評価されていた。資源の一滴も無駄にしないという、近年のアブダビ政府の資源政策にもマッチした。

この本には、石油会社が資源保有国で石油開発事業を行ってきた歴史が綴られている。同時に日本の会社が海外で事業を行う際の普遍的な視座も与えてくれると感じる。すなわち、自分たちが見定めた事業分野・市場において、事業投資を行ってコミットをする、そして現場のことをよく知り、現地の人に寄り添った考えで仕事をし、そして何よりも技術に拘りを持ってコツコツ丁寧に継続して事業を行うということである。

俺もアブダビ石油のこうした姿勢、思想、行動様式を見習って仕事をしていきたいものだ。