anezakimanのアブダビ日記

アラブ首長国連邦アブダビ首長国に駐在になりました。そこで出会ったことを綴ります。

アルバニア共和国旅行記・後編

月曜日(会社年休)

早朝4時に起き、バス停まで20分かけて歩き、朝5時の始発ティラナ行きのバスに乗車。3度目のバスで今度は3時間ほどでティラナに着く。ティラナでのテーマは歴史と文化。バスターミナルから市内バスを乗り継いて郊外のバンク・アートという博物館に行く。

ここで少しこの国の戦後の歴史に触れねばなるまい。第二次大戦中の共産主義勢力が主体となって、戦後共産党政権が誕生。このトップとしてエンヴェル・ホジャという独裁者が1985年に死亡するまでの40年間、アルバニアの政治権力を一手に握った。

この間に彼がしてきたことは、時系列的に概略下記である。

  • スターリン主義に基づくソ連寄りの社会主義国家建設
  • ソ連と対立したチトーのユーゴスラビアと断交
  • スターリンの後任となったフルシチョフのスターリン批判を受けてソ連と断交
  • 中国に接近、政治・軍事・経済面で蜜月時代を築く
  • 中国文化大革命の影響も受けて世界初の無神国家を表明、全ての宗教を完全に否定かつ禁止して全国の教会とモスクを閉鎖
  • 鄧小平の開放政策以降の中国と一方的に断交
  • 鎖国政策を取り世界的に孤立。全国民に銃器を保有させる国民皆兵政策を行ない、全国にトーチカ(バンカー)という防空壕を17万個設置
  • 1985年の死後、そしてソ連崩壊に伴う民主主義国家への転換後、1997年に多く国民がネズミ講の崩壊にあって財産を失い、大暴動が発生

この無茶苦茶な独裁者のもと、多くの国民が粛清にあった。俺も含む多くの日本人が知らないアルバニアの過酷な戦後史である。この後はそれなりにまともな政治家が出てきたようで、経済も立て直され、EU加盟という国家悲願に向けて邁進中のようだ(現在はEU加盟候補国)。

こうした歴史の痕跡が首都ティラナのあちこちで見られ、その代表的なものがバンク・アートと称する、ホジャが建設を指示した大規模なバンク(地下防空壕)である。

f:id:anezakimanAD:20230728035506j:image

山肌を掘ったトンネルをくぐると、核兵器や化学兵器にも耐えられるように作られた暗い施設の中に、多くの部屋やホールがある。

f:id:anezakimanAD:20230728035510j:image

現在は当時の部屋をそのまま展示したり(下記は有事の際に集まる執務室、奥の写真がホジャ)、

f:id:anezakimanAD:20230728035517j:image

テーマごとに写真や当時の記事を掲載して、歴史の暗部を紹介している。下記は国民を国外に出さないための電気鉄条網の再現。

f:id:anezakimanAD:20230728035513j:image

そして下記がアルバニア中に作られたバンク(防空壕)の写真である。

f:id:anezakimanAD:20230728035503j:image

この防空壕は今も実物があちこちで残っている。今回の旅の途中で見たものは、サランダ市内にあったもの、

f:id:anezakimanAD:20230728193416j:image

ジロカストラの手前で、

f:id:anezakimanAD:20230728193441j:image

そしてティラナ市中心部では、実物がバンクアート2という博物館となっている。

f:id:anezakimanAD:20230728193706j:image

こうしてすっかりホジャの毒気に当てられ(苦笑)、ぐったりしつつも市内中心部に戻る。そしてこの国の歴史の明るい側面にも触れる。アルバニアの英雄、スカンデルベグである。

f:id:anezakimanAD:20230728035745j:image

15世紀のオスマン帝国の支配下でアルバニアの軍司令官となったが、オスマン帝国に反旗を翻して、オスマン軍を撃退することに成功してアルバニア北半を統一。25年間にわたって独立を保った民族の英雄である。

そしてこれまで見てきたものも含む、この国の古代から現代までの歴史、文化が一堂に会しているのが、この堂々とした正面デザインの国立歴史博物館である。

f:id:anezakimanAD:20230728035752j:image

ここでたっぷり2時間を過ごす(館内写真禁止)。

それから市内のレストランで遅い昼食を簡単にとり、バスでティラナ空港に戻り、18時半発のアブダビ行きに飛び乗り、俺のアルバニアの旅は終わるのであった。

まとめ

前編でふれた俺の旅の3要素に沿って振り返ってみる。まず複雑多様な歴史。今回訪問したブトリントが象徴しているが、地中海世界の要衝であるこの地には、古代から多様な民族・宗教の侵入、征服があった(ギリシャ、ローマ、東ローマ、ベネチア、オスマンなど)。戦後、民族自立がかなったと思ったら、とんでもない独裁者が出てきて混迷。民主主義国家としてようやく復興の途に就いたと思ったら、大規模ネズミ講被害といったカタストロフィー。こうした多様な歴史の多くが物語や遺跡として残されている。そしてこれら殆どが日本人には未知であろう。街を歩き、知らなかった歴史や文化を知る、間違いなく旅の醍醐味の一つである。

豊かな自然。今回ほぼアルバニアの中央部から南半分をバスで走ったことになるが、どこも緑に囲まれている。今回訪問したブルーアイは、世界中から観光客が訪れる自然の驚異でもある。

最後に物価。数年前のレートだと1レク(現地通貨)=1円と言われていたが、今は円安なので1.5円となっている。これだとちょっと違う感じがあるので、AED(UAE通貨)で表すと。

  • 市内循環バス 1.5 AED
  • 空港~市中心部バス 15 AED
  • 長距離バス 50 AED
  • 観光施設入場料 10~30 AED (一番高かったのはバンク・アート)
  • ホテル1泊朝食付き 200~300 AED
  • ランチ(ビール、ワイン1杯ずつ) 70 AED
  • 夕食(ちゃんとしたレストランでやや豪華に) 120 AED

UAEはそもそも物価が高いので、それに比べること自体無理があるかもしれないけど、価値との対価という意味でも全体的にお得と感じた。

そして今回、国内の移動はすべてバスを使った。これもまた国民観察・交流という意味で興味深く、楽しかった。総じてアルバニアに向かった俺の直感は、大正解でありました。俺の週末弾丸バックパッカーもいよいよ成熟してきたね(笑)。次回も COMING SOON!